犬のごはんには「療法食」というカテゴリーに属するフードがあります。療法食は、特定の病気や症状、健康状態に対応するために特別な栄養バランスでつくられており、その子の症状に合わせてかかりつけの獣医師の先生の指導のもとで与える食事です。
中でも、腎臓にトラブルが起きてしまった子は、腎臓に負担がかかりにくい特別な栄養バランスの食事療法がとても重要なケアになります。
今回は、腎臓にトラブルがある子向けに栄養バランスを調整されたフードについて、いろいろなメーカーさんの成分値や原材料を比べてみました。
この記事はこんなことが気になる人におすすめ
・慢性腎臓病に対応したフードの選び方が気になる
・うちの子の好みに合う腎臓ケアフードを探している
・うちの子がなかなか療法食を食べてくれない
・腎臓ケアフードの成分値や原材料を比べたい
・ひと口に「腎臓病」「腎不全」といっても、その子の状態によって選ぶべき食事や治療は異なります。腎臓ケアの療法食を選ぶときは、必ずかかりつけの獣医さんに相談し、一緒に考えてもらいましょう。
・この記事では慢性腎臓病の食事管理について詳細は割愛しています。
慢性腎臓病に対応したフードの栄養成分とは?
腎臓は、血液中の老廃物を尿として体外へ排出する、尿の濃度を調整して体に必要な水分やミネラルバランスを整える、赤血球の製造や骨の維持に関わるなど、生命維持に欠かせない重要な役割を担っています。
腎臓の機能が低下すると、排出されるべき老廃物や有毒な成分が血液中にどんどん溜まってしまい、全身にさまざまな症状を引き起こします。また、血液中に有害物質が溜まることが、犬にとっての「気持ち悪さ」に直結し、食欲がなくなる、嘔吐するなどの症状が現れます。
ですから、腎臓病の症状が確認されたら、腎臓への負担を減らしてなるべく「気持ち悪くならない」栄養バランスのごはんで食事管理をすることが推奨されます。
この記事では腎臓病のメカニズムについて詳細は割愛しますが、腎臓の機能が低下したときにオーバーフローして、体に悪影響を与えたり気持ち悪さを引き起こしたりする主な成分は「リン」や「タンパク質」の老廃物だということが分かっています。
特に、血中のリン(P)の濃度が高い状態になると、気持ち悪くて「もう何も食べたくない」という症状が強く現れると言われています。
リンもタンパク質も本来は健康維持に不可欠な栄養素ではありますが、腎臓ケアを優先しなければならない状況になった場合は必要最小限を確保しながら、体に入る量を制限する(少なくする)必要があります。
また、腎臓病の進行を早める要因の一つに高血圧があるため、その子の症状によってはナトリウムのバランスにも気を付けなくてはなりません。
このような栄養バランスを調整した特別なフードが「慢性腎臓病に対応したフード」です。
【慢性腎臓病に対応したフード】
・普通のフードに比べて、リン・タンパク質・ナトリウムの配合バランスが少ない
・リン・タンパク質・ナトリウムは必要最小限の栄養を確保できるよう調整されている
・エネルギー(カロリー)は炭水化物や脂質から摂取できるよう調整されている
・必要なミネラル・ビタミン・オメガオイルなどがしっかり配合されている
特別な栄養バランスで、いわゆる「総合栄養食」のバランスではありません。
各メーカーの成分値と原材料を比べてみました
リンやタンパク質の濃度が調整された「慢性腎臓病に対応したフード」は、一般的なドライフードに比べれば種類は少ないですが、それでも最近は選択肢が増えてきました。またメーカーさんによって栄養バランスに違いがありますし、原材料の特徴もあります。
食欲が落ちている子も、少し目先が変わったり、原材料の風味や粒の質感が変わると興味を示してくれることがあります。
療法食を食べる前はどんなタイプのフードが好みだったか、あるいは、症状に合わせて少しでもリンの含有量が少ないフードを選びたい、他に事情があって脂質もなるべく抑えたい、などうちの子に合うフードを探すヒントになればと思います。
新しい療法食に切り替えてみたいときは、必ずかかりつけの獣医師の先生に相談しましょう
この記事では、リン・タンパク質・脂質・ナトリウム・エネルギー(kcal/100g)・原材料TOP7を比べてみます
ヒルズ プリスクリプション・ダイエット ドッグフード k/d 腎臓ケア
・リン:0.24%
・タンパク質:11.5%以上
・脂質:17.0%以上
・ナトリウム:0.19%
・エネルギー:390 kcal/100g
・原材料TOP7:米、動物性油脂、トウモロコシ、ビートパルプ、全卵、エンドウマメ蛋白、トリ肉(チキン、ターキー)エキス
ロイヤルカナン 腎臓サポート セレクション ドライ
・リン:0.31%(パッケージには100kcal当たり0.08gと表記)
・タンパク質:10.5%以上
・脂質:16%以上
・ナトリウム:0.35%(パッケージには100kcal当たり0.09gと表記)
・エネルギー:396 kcal/100g
・原材料TOP7:米、コーンフラワー、動物性油脂、コーン、肉類(鶏、七面鳥)、加水分解タンパク(鶏、七面鳥)、ビートパルプ
サニメド 犬用リーナル
・リン:0.44%
・タンパク質:11.3%以上
・脂質:14.3%以上
・ナトリウム:0.11%
・エネルギー:410 kcal/100g
・原材料TOP7:穀類(大麦、トウモロコシ、白米、コーングルテン)、油脂類(動物性脂肪(家禽)、魚油(DHA/EPA源))、肉類(家禽ミール、チキンレバー加水分解物)
ナチュラルハーベスト キドニア
・リン:0.3%
・タンパク質:15%以上
・脂質:10%以上
・ナトリウム:0.11%
・エネルギー:339 kcal/100g
・原材料TOP7:精製白米(米国)、α化米(米国)、全粒大豆(グリシニン源)(米国)、グルコース(米国)、鶏卵(米国)、豚腎臓(米国)、ビートファイバー(米国、カナダ)
アニモンダ インテグラプロテクト 腎臓ケア ドライフード犬用
・リン:0.4%
・タンパク質:16%以上
・脂質:20%以上
・ナトリウム:0.2%
・エネルギー:416kcal/100g
・原材料TOP7:ライス、 コーン、 鳥タンパク(乾燥)、 鳥脂肪、 牛脂、 ビートパルプ、 加水分解鳥タンパク
グリーンドッグ yum yum yum!健康マネジメント腎臓
・リン:0.33%(公式HPでは100kcal当たり0.09gと表記)
・タンパク質:17.9%以上
・脂質:10.3%以上
・ナトリウム:0.18%(公式HPでは100kcal当たり0.05gと表記)
・エネルギー:364 kcal/100g
・原材料TOP7:小麦粉、鶏肉、豚脂、てんさい繊維、かつお節、卵黄パウダー、かつお節エキス
ミネラルや微量要素の表示は、メーカーによって単位が異なるのが注意ポイントです。上記の表では全て%表示(=100gあたり含有量)に換算しています。
ドライフードは他にもたくさんありますので、また情報更新して参ります!
腎臓ケアフードを選ぶときのヒント
慢性腎臓病に対応したフードは、腎臓の負担になるタンパク質やリンが制限されています。
上記で比べた通り、実はリンやナトリウムのミネラルバランスは各社ともそれほど変わりません。(ロイヤルカナンさんはちょっとナトリウム割合が高めのようです)
腎臓ケアフードの一般的なミネラルバランス
・リン:0.3%~0.4%程度
・ナトリウム:0.1%~0.2%程度
一方で、タンパク質については、各メーカーでアプローチに差があります。
腎臓ケアフードのタンパク質・脂質バランスにはいろいろなパターンがある
①しっかりタンパク制限された「タンパク質<脂質」バランスのフード
タンパク質:11%前後、脂質16%前後
例)ヒルズ・ロイヤルカナン・サニメド・キドニーケアなど
②タンパク質の制限がそれほど強くない「タンパク質>脂質」バランスのフード
タンパク質:16%前後、脂質10%前後
例)ナチュラルハーベスト・グリーンドッグなど
③どちらもそれほど制限していない一般食に近いフード
タンパク質:17%前後、脂質20%前後
例)アニモンダなど
ややこしい話ですが、①・②・③のどのフードが良い・悪いではありません。
その子の年齢や腎臓トラブルの進み具合、肝臓・心臓・膵臓などほかの臓器のトラブルとの兼ね合い、カロリーをどうとりたいか、などを総合的に考えて、うちの子に合いそうなごはんを選べるとベターです。
もちろん、まず食べてくれるかどうか、という問題がありますね…
嗜好性については、犬たちの好みがあるのでなんとも言えないところなのですが、原材料や粒の大きさなどをヒントにできるだけ好きそうなものを選んでみましょう。
腎臓ケアフードのベースになる食材は、トウモロコシ(コーン)・コメ(ライス)・小麦などの穀類であるフードが大半です。どれかひとつのフードを食べ飽きてしまった場合は、コーンベースのごはんからライスベースのごはんに変えてみるなど、原材料に変化をつけてみるのもよいかもしれません。また、フードに配合されているオイルが、植物由来なのか、魚由来なのか、牛由来なのか、というようなところでもその子の好みを反映できるかもしれません。
一生懸命選んだつもりが、全く食べてくれない・・・アルアルです。どうか落ち込まないでください。
個人的には、タンパク質制限が弱いもののほうが嗜好性がマシな印象はあります。
…が、食べてくれない時はドライフードにこだわらず、腎臓ケアのウェットフードや流動食に頼ることも大事だと思います。栄養補給優先で!
まとめ
慢性腎臓病に上手に対応するためには特別に調整された栄養バランスの食事が不可欠です。うちの子の進行具合や他のトラブルとの兼ね合いなどを含め、かかりつけの獣医さんに相談してみてください。
昨今は、腎臓ケアフードもドライ・ウェット・流動食といろいろなバリエーションがあり、ドライフードだけとっても、原材料や栄養バランスに変化をつけられるようになってきています。
とはいえ、腎臓ケアのフードは犬たちの大好きな動物性原材料を多く配合できない(タンパク質とリンを制限するため)という難しい条件の中で作られたレシピであるため、なかなか「めちゃくちゃよく食べる」フードはないのが現実です。
腎臓ケアのごはんと向き合っている飼い主さんの多くが、食欲が落ちてしまう症状に悩み、あの手この手で少しでも食べてくれるフードを探していらっしゃいます。本人(本犬)たちが気持ち悪がっている、何も食べてくれない、何か(なんでもいいから)食べさせてあげたい、という焦りで不安になる飼い主さんのお気持ちもとても分かります。
そのようなときに、実はいろいろなメーカーさんの療法食があって、それぞれ成分や原材料に特徴があるということを知っていれば、もともとのうちの子のフードの好みや症状に合わせて、食べてくれるものを探すヒントになるかもしれません。
この記事が、かかりつけの獣医さんと一緒にごはんを考える参考になれば幸いです。
腎臓病は食事管理で進行を遅らせることができる病気です!